しょーべん横丁と少女とアタシ

むかし、新宿駅の近くにしょうべん横丁とゆうトコロがあった。
ぼろっちい木造の建物が折り重なるように建ってて、大きめの地震一発で木くずの山になりそうな、ちいさくてせまくって小さな居酒屋がぎゅうぎゅうに詰まっておる区画。夜な夜な背脂みたいなおっさんが虫みたいにたくさん集まる夢みたいな町だったんだ。

でも火事でもえた。
小便横丁は地震で木くずの山になるんじゃなくて、マッチ一本かなにかでけしずみの山になってしまったのだった。

そのとき、アタシの長年のなぞが解けた。

しょうべん横丁はしょうべんを量産する場所ではなかったのだ。だって、しょうべんを量産する場所なら、火事なんて小さいうちにしょうべんで消しつくされたはずなのだもの。酔っ払いは火が大好きで、ちっさく燃えている火には必ずしょうべんをかける。くすぶるタバコの中の小さな火だって見逃しはしない。看護士さんたちのあの聖なる儀式だってしょうべん横丁でやったらしょうべんで消しつくされるに決まっている。あいつらには火しか見えないから。

しょうべん横丁の酔っ払いたちは火が大好き。燃えさかる炎は下着姿の南米系女子のようであるが、くすぶる火は真白いパンツをはいたＢカップくらいの清純な乙女。尿意の先にふいに現れた、無抵抗で純情な少女。尿意は性欲を凌駕し、果たして忌むべきしょうべん袋たちは疑いを知らぬ無垢な存在に容赦なくしょうべんをあびせる。

「ふぁっ！イヤァ……」（ＦＩＲＥ）

少女は頬染めて力なくつぶやき、無抵抗に消えてゆくだろう。
その姿を見て酔っ払いの脳内に住まう永遠の少年システム（一生童貞のマインドを保持し、おっぱいにあこがれるシステム）が発動する。尿意を克服した彼らは今まさに性欲とうでを組んでスキップしながら歌舞伎町のネオンを目指すののだろう。それが、新宿というシステムなのだろう。

そう思っていた。
でも、ちがった。

しょうべん横丁は果たしてマッチ一本で燃えさる、か弱い少女のような町だった。まるであの夏の日に海岸で見た、真っ白いワンピースのあの娘のような。そして酔っ払いたちは燃えさかる火の前で尿意も忘れへたりこんでいた。連れ合いをなくしたばかりの未亡人のように。

後日、中野の酔っ払いが「あれは都の陰謀。やつら、あそこを緑の窓口にするつもりだ。」とか言っていた。それＪＲじゃん、とおもったけど黙っていた。

そのうち、しょうべん横丁はいくぶん丈夫になって復活した。
もうマッチ一本では　もえない。

あの町の未亡人たちもまた、強くなったのだ。


おしごともおわったし、２時間寝てポストカードをつくるヨ。
すっかり見慣れたぎたさんの絵は、なんだかあんしん。

＋アリコ＋